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創業15周年を迎えて~代表取締役・堀川憲司インタビュー・後編

(前編はこちら)

――2012年には爽やかな青春物の「TARI TARI」と、ホラーの「Another」という両極端な作品を制作しています。

堀川 「TARI TARI」を思いついたのは東日本大震災があったから。悲しいことがあっても希望を失わず前に進もうということを、歌と結びつけて形にできないだろうかと考えた作品です。バンドは「Angel Beats!」でやったので、同じ歌でももっと地味な合唱でやってみました。橋本(昌和)監督はテレビシリーズ初監督だったのですが、初監督って無茶をするもので。大抵の場合、その真剣な無茶は良い方向に向くんですよ。監督の大変な要求に応えていくのは大変でしたが、これも楽しかった作品ですね。

――「Another」は、人気作家の綾辻行人のホラー小説が原作です。

堀川  角川さんには、何年も前から一緒にやりましょうと声をかけてもらっていて。いろいろな小説を読み漁った中、この作品はウチに向いていると思ったんです。水島(努)監督とは、これが初めての作品だったんですけど、笑えるものが得意な方向性の人がホラーを作ったらどうなるんだろうと思って聞いてみたら、興味があるとのことで、ぜひにとお願いしました。富山を舞台にしているのですが、どんよりとした空気感を美術が綺麗に表現していて。何かが起こりそうな雰囲気を上手く出せたかなと思っています。

――ショッキングな展開の連続で、「『Another』なら死んでた」という言葉もネット上などで流行りましたね(笑)。

堀川 どんどん人が死ぬ話なので舞台を決めるときには困ったんですよ。地元の人なら許してくれるかなと思って、僕らの地元を舞台にしました(笑)。

――2013年は、制作本数の多い年ですね。

堀川 それまでずっと、動かす企画は僕が決めてきたのですが、若いラインプロデューサーが育ってきたので、彼らで考えた企画を動かす時期だろうと思ったんです。その1発目が「凪のあすから」。この作品は、辻(充仁)プロデューサーと篠原(俊哉)監督が企画の起ちあげから全部自分たちで作っていて。僕はそれを横で見ている形でした。彼らだからできた作品という要素はすごくあると思います。僕には14歳の恋心なんて純粋すぎて描けないですから(笑)。それを僕より年上の監督が生みだしているところがちょっと悔しいんですよね。会社の中でも、そうやって刺激しあえるのは良いことだと思います。

――森見登美彦の小説が原作の「有頂天家族」も、毛色の違う作品ですね。

堀川 それまでのウチにはないジャンルの作品になったと思います。あとは、吉原(正行)が初めてテレビシリーズで監督をした作品でもあります。僕はフリーの原画マンの集団が、吉原の要求にテレビシリーズのような量産体制で応えていくのは無理だと思っているんです。技術的なことから仕事に対する姿勢まで、要求度が非常に高いので。それを実現するには、ほぼ社内スタッフで作るしかないと思って、そのためにスタッフを育ててきました。吉原は一時期、Production I.Gに出向していましたが、「マイの魔法と家庭の日」あたりで戻って来て、現場の原画マンを育てていたんです。それが実った最初の作品。「動かす」というアニメーションの基本に忠実に作ることができた作品です。

 

●「SHIROBAKO」は批判も覚悟していた

――「劇場版 花咲くいろは HOME SWEET HOME」もこの年に公開されました。

堀川 テレビシリーズの後、続きを観たいというお客さんの要望があって。そのチャンスがあるなら、何ができるだろうと考えて作った作品です。ただ、ウチの作品はどれも、最終回が綺麗に終わり過ぎて、続きが作りづらいんですよね(笑)。この作品に関しては、劇場版にするならこういう話が観たいという意見をいろんな人が出し、(脚本家の)岡田麿里さんが、その意見を聞いて書いたのが、あのお話です。

――「RDG レッドデータガール」も、荻原規子の現代ファンタジー小説が原作ですね。

堀川 「PAさんなら、こういうものが向くんじゃないですか」と提案された作品の一つ。普通はアニメの企画として通りにくい児童文学でアニメを作れるというめったに無いチャンスだったので、喜んでやらせていただきました。この作品は、物作り、特に物語を作ることに関して、より深く考えるきっかけになりました。神話とか昔話とか、全部「RDG」から幅を広げて読むようになったんですよね。だから、僕個人としてすごく影響を受けているし、この作品以降、僕の作品作りがずいぶん変わったと思っています。

――2015年1本目の作品は、福井を舞台にしたファンタジックなラブストーリー「グラスリップ」でした。

堀川 大抵のアニメーションって、最初にシリーズ構成(物語全体の大きな流れ)を決めてから作っていくんですけど。この作品くらいからは、結末が見えないままスタートして、テーマについて登場人物たちといっしょに考えながら物語を作っていきたいという思いが強くなってきたんです。なので、「グラスリップ」では、自分が提示したテーマについての答えがなかなか見えなかったので、結末が見えず、途中で暗礁に乗り上がりそうにもなりました。

――どのようなテーマがあった作品だったのですか?

堀川 僕の中では、「心の中に傷を抱えている人に対して、人はどのように寄りそえるのか」というテーマがあった作品でした。ただ、その結論はセリフとして視聴者に提示するようなものではなくて。観ている人々が自分の人生や経験に紐づけて、それぞれに解釈をしていくもの。その器になるのが作品だと思っていますし、今はそういう思いで作っている作品が多いです。

――アニメ業界を舞台にした「SHIROBAKO」は、身近な題材の分、難しさもあったのでは?

堀川 この業界をどういう視点で捉えるかは人それぞれ。会社によっても違うので、作品として一つの形を示してしまうことに関しては、相当批判があるのも覚悟していたんです。でも、業界の人からもわりと好意的に受け入れてもらえました。僕が業界に入ってからの25年間、アニメーションを作り続けながら感じてきた魅力、体験したこと、いろいろな人から聞いた台詞などを、形を変えて入れた作品なので。同じように、この仕事が面白いと思って作り続けている人には受け容れてもらえたのだと思います。

――「Charlotte」は、「Angel Beats!」以来の麻枝准作品です。

堀川 「Angel Beats!」のときは新人が多くて、麻枝さんが求めるものには全然届いていなくて。作品を面白いと言ってくれる人は多かったけれど、制作会社としては及第点じゃなかった。だから、スタッフが成長してきた今、もう一度、麻枝さんとやってみたいと思ったんです。それに、「Angel Beats!」のときに若いスタッフがものすごく楽しんでやっていたので、もう一度、若い人が楽しみながらファンの目線で作ってみるのも良いかなと。「凪のあすから」以降は、若いプロデューサーに任せた作品はないですが、視聴しているファンと同じ年代のプロデューサーや現場スタッフが中心になって動く作品はあるべきだと思っていて。今、動かしている企画の中にはそういう作品もあります。

――「ハルチカ~ハルタとチカは青春する」では、社会的な問題も取り扱う青春ミステリー小説が原作となりました。

堀川「KADOKAWAさんに勧めてもらったのがきっかけです。アニメ化したい原作を探していたのに、なんでこんな面白い小説に気づかなかったんだろうと思った記憶があります。アニメ化が決まって、ハルタとチカのやりとりはコメディーなんだけど、この小説が持っている品の良さは大切にしようと思いました。それと、僕が原作エピソードを読み終えたときの、ホロリとさせられた読了感を、視聴者と共有したかったですね。

あと、メインキャラクターからゲストキャラクターまで、一人ひとりのキャラがすごく立っていて、上手いなと思いました。ハルタとチカと草壁先生の三角関係?を最初に提示することで、「ハルタとチカの恋愛ストーリーはありません」と宣言しているのも斬新でした。これは面白い青春群像劇になるぞと。

ただ、謎解き解説のシーンは会話劇で動きがないので、どうやって視覚的な変化を作るか、という難しさは感じていましたし、彼らは吹奏楽部でありながら、練習風景はあまり描かれていないので、吹奏楽によるケレン味をどう効果的に使うかというのも難しいだろうなと思いました。それと、50年前の社会問題を扱った事件では、その時代を体感したことのない若い視聴者には伝わらないものがありますからね。橋本監督は挑戦課題が多かったと思います」

――大東百合恵さん(PA所属アニメーター)が初めて総作画監督を担当した作品でもありますね。

堀川「関口可奈味さん石井百合子さんに続く次の世代のキャラクターデザインを社内から育てていきたいと思っていたから、社内コンペをやって決めました。橋本(真央)も制作デスクは初めてだったけれど、すごくよくやってくれた。これは大きな収穫でした。大東のサポートも含めて、現場を精神面でもかなり支えてくれた。いつも言っているんですけど、制作、特にラインPは、制作現場のムードを演出するのも仕事なので、橋本も将来自分のラインをもったときに、どんどんスタッフを巻き込んで“この作品で監督は何をやりたいか、制作現場は何に挑戦するか”ということをスタッフと共有して欲しい。そういうラインづくりを目指してほしいと思いますね」

――次に、現在放送中の「クロムクロ」では、15周年記念作品として富山を舞台に初のロボットアニメへ挑戦されています。

堀川「巨大ロボットアニメは、昔からあるジャンルの一つだし、いつかはやりたいという思いがあったんです。それと、うちの作画をずっと支えてきた3D班が主役になるようなアニメーションもやってみたいと思いました。本社の作画スタッフも増えてきて、意外に女性スタッフがアクション作画に対して抵抗感なく、むしろ熱血ものも好きだということもわかりました。そろそろ挑戦できるかな、と思ったのがキッカケかな。それと、黒部ダムという巨大な建設物にロマンを感じていたので、あそこに巨大ロボットを立たせたいというのはずっと言い続けてきました。

――岡村監督とはP.A.WORKSとしては初めてタッグを組むことになりますね。

堀川「これまで岡村さんから「なぜ俺に(監督の)声がかからないんだ」みたいなことを冗談っぽく言われてたんですけど、いやいやうちの力では監督のオーダーにまだ応えられないと思ってました。それでもようやく人も育ってきたし、そろそろやれるんじゃないかなと思って今回お願いしたんです。昔の作品では現場の体力とか予算とかを考えて、手加減したコンテを上げてくれたこともあって、当時悔しい思いをしたので、今回あがってくる絵コンテには大変な話数もあるけれど、最後まで監督がやりたいことを形にしたいなあと思っています」

――ロボットアニメとして、特にこだわられたことなどはありますか?

堀川「一つは、巨大ロボットの気持ちのよいアクションが見たいということ。ロボットを作画で描くのが難しい理由は、物理的に一枚描くにも手間がかかること。それから、重量感を表現するためにはスローな動きが必要で、膨大な枚数を描かなければならない。その手間と予算の問題がある。3Dではそれが表現しやすくなったけれど、ただのヌルヌルとした動きでは、手書きの作画が長年かけて作り上げてきた視覚的快感のあるアクションにはならないんです。スケール感と重量感をもった、作画的アニメーションのロボット戦闘アクションを見てみたいという思いはありました。

もう一つは、戦闘シーンは市街戦で見たかった。宇宙空間ではなく、身近な生活感のある場所で巨大ロボットが戦ったらこんなことが起こるかもな、というスケール感と迫力をイメージして欲しかったので、実在する場所を参考にしました」

――7月から2クール目に入りましたが、視聴者の方にはどういう点を見てもらいたいでしょうか?

堀川「P.A.WORKSは、アニメーションを通して、見てくれた人にこれからの物語が生まれる作品を提示したいと考えています。『クロムクロ』のテーマは、人々が自分の物語について考えることです。物語というのは、目標そのものではなく、目標に至るまでの連続した冒険譚です。この作品を終えたときに、剣之介や由希奈や、多くのキャラクターたちにも、一人ひとりの新しい物語が生まれればいいなと思っています」

 

●ポジティブな物語をこれからも作りたい

 

――2016年も半分過ぎましたがP.A.WORKSにとって、どのような年になると思いますか?

堀川 「クロムクロ」は勝負企画なので最後まで乗り切れるのかということですね(笑)。でも、常にチャレンジを失わないことが大事かなと。僕が「true tears」の現場で感じた、自分たちが1本の作品を作って発信できる喜びなどは、だんだんと慣れていってしまうんですよね。それはとても危険なことで、作品を作るチャンスを貰える喜びを失ったら終わりだと思っています。クリエイターにとっては、常に新しい刺激や課題を見つけながら作り続けることが大事なので、来年作る作品にしても、次の年にやるものに関しても、今までにやったことのないことが要素として入っています。今のウチの現場の力からしたら、150%くらいの力が必要になるでしょうね。

――15周年事業も大きなチャレンジになりますね。

堀川 昨年、ホームページで今後の事業展開を発表しましたが、最初に話したように、業界の環境が大きく変わっている今、僕らがアニメーションを作り続けるためには、制作会社が自立して強くならなきゃいけないんです。そのための足腰を鍛えるため、リスクを抱えて冒険している部分はあります。会社を立ち上げたときは、ただアニメーションを作りたかっただけでしたが、しばらく前から、僕らが富山でアニメーションを作ることの意味ってなんだろうって、よく考えるようになりました。富山県や南砺市に対して、どういう効果があるのかは、まだよく分かりません。でも、今やってるいろいろなことが構造的に繋がったときには、きっとアニメーションにはこんな力もあるんだというものが見えるはず。僕は、アニメーション作りの一番の大きな力は物語を提示できることだと思っているので、観ている人も、南砺市も、僕ら作っている側も、関わっているみんなに前向きな未来を提示できるような、そういうポジティブな物語をこれからも作りたいと思っています。

――AnimeExpoでの15周年展開催も、何か別の大きな意味をもつかもしれない?

堀川 そうですね。僕は行動が先の場合が多くて。人を育ててみたら、こういうことができるんだ。じゃあ、もっとこうしよう、みたいなことが多いんです。AnimeExpoへの出展もいろんな事業展開も、やったことが刺激になって、周りに予測できない影響をいろいろと与えると思うんですよ。その中で面白そうな、未来に繋がることを大切にしていくのが今までの僕のやり方だし、経験的にその方が正解だと思っています。こんなに大がかりなこと、どれだけ大変か分からないじゃないですか。多分、僕らが予想しているより大変なんでしょうね(笑)。それでも、まずはやってみることが大事なんですよ。

 

金, 8月 5 2016 » P.A.WORKS Blog

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