P.A.WORKS Blog

有頂天日記 9月1日

 へいほー!
【有頂天家族】第九話『夷川の娘・海星』をご視聴いただきまして、ありがとうございます。
なにゆえ海星は矢三郎に姿を見せないのか?
なにゆえ総一郎は弁天の前では化けの皮が剥がれるのか?

 先日音響スタジオの控室で偶然弁天役の能登麻美子さんに会いまして。
弁天の話題で話が弾みました。
今は森見登美彦作品【奇想と微笑】を読まれているそうです。
太宰治が好きなのかしらん?
「森見先生は弁天といい、【桜の森の満開の下】の女といい、桜の木の下で出会う女性に一目惚れする傾向があります」と言うと、「坂口安吾の?」と能登さん。
文学少女なのかしらん?
僕の【桜の森の~】は『首遊び』をする怖い女じゃなくて、【新訳・走れメロス】に収められた一篇ですが、どちらの『女』も弁天を理解する手掛かりになるんじゃないかと踏んでるんですけどね!
そんな訳で、森見作品のヒロインについての謎解きはしばらく楽しみにとっておこう。

 本日は以前ツイッターで呟いた『井上俊之【有頂天家族】原画集』についての報告です。
井上俊之さんはアニメーション業界で『カリスマ・アニメーター』と言われる人ですね。
ご本人はそう呼ばれるのを小馬鹿にされているようだと嫌がっているようですが、そんなつもりで言う者がいるものか。
この業界にもしそう言える者がいるのなら一歩前へ!

 作品経歴を見ればお解りのように、普段は劇場作品にひっぱりだこなのでTVシリーズに参加することはめったにありません。
そんな井上さんが今回【有頂天家族】に参加してくださったのは、作品の面白さとキャラクターデザインの魅力、吉原監督との長いつきあいと、P.A.WORKS立ち上げの頃からアニメーターを育成する方針に賛同してくださっているからだと思います。
4年以上前から【有頂天家族】の制作が決まったら参加して頂きたいと(必要以上に)声をかけ続けて、なんとかスケジュールを調整していただけました。

 【有頂天家族】ではトータル155cutの原画と20カットのレイアウトを担当していただきました。
カット数を絞って完成度を上げるよりも、たくさんのカット数を描くことに喜びがあるのだそうです。
その稀有なモチベーションは20代のアニメーターなら解りますが、アニメーション業界では圧倒的マイノリティーでしょうね。

 3話『薬師坊の奥座敷』では西崎源右衛門商店のシーンから担当しています。
奥座敷が街の上空を浮遊するシーンはレイアウトのみです。
暖簾をくぐる矢三郎の何気ない所作だけで、『おお、見せてくれる』と何故か安心します。

 担当していただいたカットの中からアニメーターの参考になりそうなカットを選んで原画集を作りたいと提案したところ、快く承諾してくださいました。
日本のアニメーションの作画技術を完成映像だけではなく、原画やその人の考え方など、いろんな形で残しておきたいと思いました。
 今後も井上俊之さんをはじめ、卓越した作画技術を多くのアニメーターが利用できるアーカイブとして残し続けて欲しいです。
一企業ではなく、もっとアニメーション産業視点での取り組みができないかしらん?

 この原画集はイラストではなく原画のプランニングにウェイトを置こうと思います。プロのアニメーターの刺激になるものにしたい。
 できるだけカット数は多く掲載したいので、井上さんには原画の難易度で初級編、中級編、上級編に選別していただき3冊に分けることにしました。
それぞれ掲載できるのは15~20カットくらいかな。
原画を描くときに井上さんがどんなことを考えたかを知るのも良い刺激になると思い、それぞれのカットについて『作画メモ』をつけていただきました。
これは是非原画と見比べながら読んでいただきたいですね。
この原画から生み出される表現の素晴らしさ、とてもシンプルなタイムシート、次のセクションが仕事をし易いような配慮や、最終画面でリテーク率を下げる配慮と、隅々まで気が配られています。

 例えばですね。
『初級編』C174のコメント。
中身の入った瓶は意外に重いです。
左右に振った二枚の原画の間を、中割しただけではいくら【ツメ】を工夫しても「重さ」が感じられないだろうと思い、方向転換の所で、瓶に【残し】を入れてみました。

cut174絵コンテ

『中級編』C198のコメント。
手前の扇が奥の弁天をよぎる所を、別セルにしたのは、描きこみにすると奥の弁天がとても中割しづらくなると考えたからです。
動画さんが「無用な苦労」をしない様心がける事は大事なことだと思っています。

cut198絵コンテ

『上級編』C222のコメント。
くじらの動きに気を取られ、海面の動きがいい加減にならない様注意しています。
こういったタイミングの違う要素を描きこみにする場合は、あまり変則的(中割がいっぱい入ったり、急に中ナシになったり)に原画を入れずに、なるべく一定のリズムで動きを刻んでゆく気分で原画を描くとミスが少なくなります。

cut222絵コンテ

 コメントの中には「後悔しています」とか、「心残り」なんて正直に書かれているものもあるので、富山本社の原画マンが「井上さんでも上手く描けなかったと思うことがあるんですね」と驚いていました。
それを伝えると、「あたりまえじゃないか!!(笑)」
先日4000本安打を達成したイチローの記者会見のコメントにはとても共感したそうです。
打った数より打てなかったことの方が断然多い。
失敗と向き合って技術を磨き続けるのがプロ。
そんな中でたまに喜びが得られる瞬間がある。それがプロの醍醐味。
といった内容でしたね。

 どんな原画集にするかは設定制作の松子が井上さんに相談しながら進めています。
大きなサイズがいい。できるだけ沢山のカットを載せたい。タイムシートを見ながらパラパラめくれたほうがいい。どんな絵コンテのコマから原画のプランニングをしているかが解かったほうがいい等々。

 先日井上さんが板画家の棟方志功の話しをしておりまして。
超近視の棟方志功が板にオデコがひっつくらい顔を近づけて、板をクルクル回しながらすごいスピードで彫る映像を見たことがあるそうで、その実演の真似をされるのです。
井上さんが棟方志功が創作する姿にインパクトを受けたように、僕も井上さんが実際に原画を描く映像を記録してアニメーターに見せてあげたいとお願いしました。
どこから描きはじめるのか。
下書きをどんな方法で、どれくらいの密度で描くのか。
どんなスピードで描くのか。どんなリズムで描くのか。
アニメーターなら興味があると思うんです。
ですが、ムービーの撮影は駄目なんですって。
以前そんなことを頼まれたのでやってみたけれど、カッコ良くサラサラと描くところを見せなきゃ、と力が入って上手く描けなかったのだそうです。(今回は)残念。

 その他、原画集には『【有頂天家族】の作画で目指したこと』をテーマに吉原監督との対談や、原画を撮影したものを見ながらのオーディオコメンタリーもつけたらどうだろうかと考えています。
原画マンからの質問に答えてもらうのも面白そうですね。
そしてこの原画集が短期的な需要ではなく、作画技術の向上を目指す多くのアニメーターにとって刺激になる本になればと思います。
どうぞお楽しみに。

堀川

日, 9月 1 2013 » P.A.WORKS Blog

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