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有頂天日記 8月4日

【有頂天家族】第5話『金曜倶楽部』をご視聴頂きありがとうございました。
僕も三嶋亭で高級すき焼き食べたい。

それにしても森見作品の登場人物は鍋ばかり食べていますな。
狸鍋、猪鍋、牡蠣鍋、キムチ鍋、豆乳鍋、闇鍋、火鍋、あんこ味のエビ、マシュマロまみれの白菜、蝦蟇、ニシキヘビ…
夏でも冬でも鍋鍋鍋鍋鍋鍋猫ラーメン鍋鍋鍋鍋猫炒飯鍋鍋…
僕は再び問うてみるのです。森見登美彦氏にとって鍋とは何かと。
えっ? 作者が考えるのが面倒だからいつも鍋なんじゃないか?
この際いいんです、正解なんて。

森見先生がご自身のブログに書かれていた通り、水曜日にオーディオコメンタリーの収録がありました。
そこで、『ああ、そうか!』と思いついたことがあるので忘れないうちに記録しておこう。

【有頂天家族】の放映が始まってから視聴者のみなさまの、「【有頂天家族】いいね。雰囲気が好き」という反響を良く目にします。
森見作品が僕らを気持ちよくさせてくれる『雰囲気』の正体見つけたり。
あ、その場の思いつきですからね。
今回の『鍋』にもヒントがあるんじゃなかしらん?

「冬の鍋というものは誰の心をも分け隔てなく、温かく包み込んでくれるというものだ」【太陽の塔】

僕らは「鍋」という単語から温かさ、団らんをイメージするじゃないですか。
同じように、森見作品に散りばめられた単語や小物からは、「温かさ」「柔らかさ(優しさ)」を連想するものが多くありませんか?
小さくて、丸くて、柔らかい小物、毛玉、おっぱい、達磨、お酒、子猫、恋、クリスマス、お祭り、薔薇色のキャンパスライフ、蛾を掴んだときの‘むにゅっ’とした感触、ソフトボールサークルの名前は「ほんわか」だし、四畳半は桃色図書で溢れている。
ふくふくと笑う彼女、ふわふわと浮かぶ弁天。
「彼女のまわりは温かく、静謐であり、神様の好意に満ちて、たぶん良い匂いがする」【夜は短し歩けよ乙女】

もちろん小説では文体やリズムの心地よさがありますよ。
それに加えて、森見登美彦氏が散りばめた言葉や小物がもたらすイメージで、僕らは何だかほっこりとした気分になるんじゃないかしらん?
だから、たとえ煮詰まった腐れ大学生たちの灰色の青春物語でも、読者の僕らには、その日常は幸福感に彩られて見えるんじゃないかしらん?

あ、そうか。まずこれらの単語を紙片に書いてみる。
そして、机の上にカラーチャートを広げて、単語からイメージする色の上に紙片を配置してみたらどんな結果になるんだろう。
【きつねのはなし】のような毛色の違う作品を除いて、多くの森見作品の言葉は明るい暖色系で構成されているような気がするぞ。
お、ひょっとして、【有頂天家族】の美術から受ける色の印象-カラフルで、柔らかくて、ヌケが良くて、明るい背景美術は、森見作品の文章を色に変換した世界観を実にうまく再現しているんじゃないだろうか。そう思えてきた。
それがたくさんの視聴者の印象、「雰囲気が好き」に今のところ一役買っているんじゃないかな。
以上、今週の思いつきを記録しました。

オーディオコメンタリーで、森見先生ご自身は自己分析のようなことはあえてしないと言われる。
原作者自身にも説明のつかないもの、明確にしたくないものがあるらしい。
その領域は巨人の進撃に備えて高い城壁で防御していることもブログで知りました。
そういえば文庫本の【有頂天家族】に解説を寄稿している劇団ヨーロッパ企画の上田誠氏も、のっけから途方にくれている。

「森見先生の作品は、答えを導き出そうとするのがそもそもの間違いで、解説するのはだからやめにする。ただただ愉しめばいい。面白く読むほかに何もするべきことは無い」

そうかもしれない。そうかもしれないけれど、共同作業でアニメーションを作る僕らは答えを必要とするんですね。
監督はその作品を自分のものにして、大勢のスタッフで創作するための共通認識を作り上げなければならないのです。

森見登美彦氏は【恋文の技術】で書いています。
「伝えなければいけない用件なんか何も書いていない。ただなんとなく、相手とつながりたがってる言葉だけが、ポツンと空に浮かんでいる。この世で一番美しい手紙というのは、そういうものではなかろうかと考えたのです」

森見登美彦氏が風船に結んで空に放った美しい手紙を、僕らは形を変えてより多くの人々と繋げる役割を担っています。
作家が選択する「ただなんとなく、相手とつながりたがっている言葉」を手掛かりに、僕らがアニメ化したい理由、大勢の視聴者とつなぎたい理由も探ります。

吉原監督が【有頂天家族 公式読本】の対談で、「『有頂天家族』という小説を、違和感なくアニメ化するうえで実は一番大事だったのは、森見さんの人間性を知ることだった気がしています」と結んでいるのもそういうことなんじゃないかと思うのです。

堀川

日, 8月 4 2013 » 有頂天日記

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