P.A.WORKS Blog

持続する志と物語

4月1日から富山本社に17名の新人スタッフが加わりました。
僕が挨拶でした話の内容を記録しておきます。

アニメーションの仕事に夢を持って毎年多くの新人がこの業界に入ってきます。
この仕事を長く続けるのは厳しいという情報も知りながら、それでも希望に胸膨らませ、キラキラした瞳で飛び込んできます。
ところが、やはり多くの人は短い間に夢を諦めて辞めてしまいます。
彼らがこの仕事を始めたときの志はどこに消えてしまったのか。
志を持続するとはどういうことか。
何故モチベーションが維持できなくなったのか。
「志」を「モチベーション」に置き換かえて考えてみました。

 モチベーションを維持する要素を3つ思いつきました。
 ①モチベーションが自分の中から生まれる状態。
自分のやりたいことや、作りたい作品が沸々と体内から湧き上がってくる場合。
今の皆さんがそうでしょう。長くこの業界で仕事を続けている人は大抵そうです。
こういう人は放っておいても自分のやりたいことを見つけて、それに向けて行動するのです。
「結局そういう人が残るんだよ」という考えは育成を放棄しているようで同意できません。

 ②モチベーションを自分で作り出せるか。
一握りの天才でもない限り、仕事を始めてしばらくすると厳しい現実にぶつかります。
簡単には超えられない技術の壁や、仕事と両立できない問題に悩みます。
その問題をなかなか突破できないでいるうちに、モチベーションが保てなくなり辞めてしまうことが多いのです。
体内から自然に湧き上がってこなくなったモチベーションを、再びどのように作り出すことが出来るかを考えてみました。

 最近僕は『物語を作り出す力』ということを考えています。
モチベーションを生み出すということは、『個人が自分の成長の物語を描けるか』と同じことなんじゃないか。
全く打ちのめされた状態からであっても、そこから前に進む新しい物語を思い描けるか。

 最もシンプルな物語の構造は、今の自分は何かが欠落した状態で、それを手に入れるために未知の世界を冒険して、さまざまな障害を乗り越えて目的のモノを獲得して帰って来るというものです。
それが姫を魔物から救い出す冒険活劇であれ、作画技術獲得の物語であれ、コンプレックスの克服であれ、パターンは同じものです。
仕事を始めた頃のモチベーションを失いかけたときに、再びシンプルな構造の成長物語を描き、そのストーリーを完結させる力があるかです。

 戦わなければならない敵が強いほど、障害が大きいほど、習得技術が高いほど、コンプレックスが強いほど、未知の世界の冒険は大変な困難を伴います。
でも、僕らはこういう仕事をしているのだから、映画のことを考えてみてください。
その困難を乗り越える過程が映画を面白くするのです。
冒険は刺激に満ちていて、主人公が成長して目標を達成したときには感動もするのです。
そう考えて、成長物語を苦労も含めて起承転結へと進むことを楽しめるかどうかです。

 ところが現実を見ていると、冒険に踏み出したところで、その物語をあっけなく閉じてしまう。
一本の映画を作りきる前に降りてしまう。別の物語を選択する。
そして、得てしてまたクライマックスを迎えることなくその物語も閉じることになる。
一つの物語を完結させる力が弱いように思います。
この業界に限らず、どの職業も何かを獲得しようと思えば平易な物語は無いでしょう。
どうせなら苦しくても刺激的でカタルシスのある物語を描いてみてはどうでしょう。

 どんな人生の物語を描き、選択するかはあなたたちに委ねられています。
この仕事が自分に合わないと思えば辞めることも簡単に選択できます。
その自由を獲得した。それが今の豊かな時代です。
選択の自由が現代ほど無かった時代は、社会から、会社から、家族から求められることが生きることに直結して、そこから逃げることが許されなかったのだから、どう耐えぬいて強くなるかというシンプルな物語が他者によって用意されていたのです。
現代は選択の自由な世界で生きいていることと引き換えに、個人が自分の物語を作り出し、完結する能力が必要になったということなんじゃないかと思います。

 この業界に限らず、自分が選択した一つの物語を簡単に閉じてしまう現状を考えると、日本はこの能力を身につける教育がまだ追い付いていなんじゃないかと思います。
もし、この先も教育方法が見直されず追いつかないのなら、先人が獲得した自由を再び放棄して、生きる為に誰かが物語を与えてくれることを望む危険な時代が来るんじゃないかとも思います。

 ③モチベーションを人から与えられる場合。
これは、今の自分が獲得すべき目標を与えられ、その目標を達成することに喜びを感じるというものです。
新人育成担当にあたる先輩に考えて欲しいことはここにあります。
彼らの成長をサポートするにはどんな役割を果たせばよいのか。
新人の成長物語に寄り添って、彼を未知の冒険に後押ししたり、知恵を授けたり、厳しい師匠となったり、相棒となったり、数々の障害突破のイベントやイニシエーションを用意したりしながら、起承転結を経て物語を完結に導く。
その取組には心理学や物語の構造論が多くの示唆を与えてくれる気がします。

 以上、モチベーションを作り出すこれら3つの要因を組み合わせれば、①だけに頼らずとも意識的に維持できるのではないかと考えました。簡単なことでは無いですけどね。
アニメーターは日々の研鑽を積んで、一つの大きな成長物語を完結するのに約10年かかります。
そこでアニメーターを終える訳ではなく、そこからまた10年の新たな物語を描いて行きます。

 新人の皆さんが、始まったばかりの物語を簡単に閉じることなく、苦難を克服しながらも、未知の冒険の刺激と目標獲得のストーリーを楽しみながら頑張って欲しいと思いますし、それを乗り越えてきた先輩も、彼らの物語完遂に寄り添って欲しいと思います。
頑張ってください。

水, 4月 3 2013 » P.A.WORKS Blog

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