P.A.WORKS Blog

10÷3の2つの答え

 先日本社ビル内で事務所の引っ越しがありました。
机の周りを整理していたら本が出てきました。
【ワッハワッハハイのぼうけん】谷川俊太郎・作、和田誠・絵

 僕は小学二年生だったから、もう40年くらい前のことですが、教室の後ろに作られた学級文庫に並んでいた本です。
読んではゲラゲラ笑い、魅力的な絵にも魅かれて繰り返し読み、返却期限に一度返してまた借りてゲラゲラ笑い、クラスの友達に薦めていっしょに笑い。
僕の低学年の頃の心の本なのであります。
‘98頃に東京の図書館を探して歩いたけれど見つからず、残念な思いをしたのですが、2005年に復刻されたので購入しました。

 ところが、読み直してもあの頃のようにページをめくるたびに笑えなかったことに動揺しまして。
子どもと同じ感性を持たない者が、子どもがゲラゲラ笑う、子ども視点のアニメーションを作れるのだろうか、おとな視点の「子ども向け」になってしまうんじゃないか、この感性のズレは取り戻せないんじゃないか、と考え込んでしまったわけです。

 そんなことまで見越してこの本には、5才から15才までに読む本である。それを超えてからは読まないでくれ。16歳になるとワッハワッハハイはもう、ワッハワッハハイではなくなるから、と初めに書かれています。

 1つ思い出しました。
この本の『おまけ2』に書かれている、10を3で割った答え3.333333333333333333333333333333333333と、小数点以下36桁まで3が続く数字の説明には、「ほんとうの答えは、世界じゅうの3という数値を全部つかっても、書ききれない」と説明されています。
 当時はこれが理解できませんでした。
「世界中の3という数字は今この瞬間もすごい勢いで増え続けているのに、誰も全部つかうことなんてできないんじゃないの?」
父親に疑問をぶつけてみると、答えは「そうだな」、でした。
父親に認められて嬉しかった記憶があります。
「それはだな、」でなくてよかったと思います。
世界中の「3」を集めるビジュアルイメージに比べて、ロジックは子どもの僕には魅力的ではなかったでしょうね。

 復刻版によせて、谷川俊太郎さんが書いています。
「現代文明の基本的なありかたはまじめであります。しかしながら、まじめは人間の精神的肉体的現実の一側面にすぎません。ふまじめもまた、人生を豊かにする香料ないしは調味料として欠くことのできないものではないでしょうか。私はこのお話で現代におけるふまじめの復権を主張しました」
本当にそう考えて書いたのなのかなあ。
 
 大人には開かなくなってしまった古い抽斗がいっぱいあるけれど、こういうものが書ける作者はいつまでも子どもの頃の抽斗を自在に開くことができるんでしょうね。
中勘助の【銀の匙】みたいに。
谷川俊太郎と河合隼雄の対談本が出てた気がするので読んでみよう。

 この本を読んで純粋にゲラゲラと笑って楽しめるのが子どもで、この本のテーマを求めるのが大人なら、創作過程ではそのスイッチの切り替えができるようになりたいです。
 答えを提示せず、常識を飛び越えて、子どもたちの疑問と好奇心をくすぐるような作品世界をアニメーションで描きたいなあ。

【RDG】の原作者荻原規子さんは、児童文学を書くときに、子どもの視点をどのように意識しているんだろう。

土, 12月 22 2012 » P.A.WORKS Blog

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