P.A.WORKS Blog

比べてみたり、置き換えてみたりたり

 どっぷりと浸かりすぎて客観的に見えなくなっている現実の問題も、他のものに例えて考えるると理解の助けになることがありますよね。
一見関係のなさそうな現象から、『ああ、そうか』とヒントをもらえるのはそんな時です。
 最近専務はアニメーション業界のあり方を、自動車のメーカーとディーラーとサードパーティーに置き換えてよく話をします。
小さな制作会社のブランドを造り酒屋に置き換えて話してくれる方もいます。

 僕は制作現場をオーケストラに置き換えて考えてみます。
そのきっかけは以前も書いたと思うんだけど、4年くらい前の正月に寝転がって観た【のだめカンタービレ】のTVスペシャル番組で、のだめが千秋にぶつけたセリフ。
「好きな曲を楽しく弾いてるだけじゃ何故ダメなんですか?」(というような内容だったと思う)が、
僕には「好きな絵を楽しく描いてるだけじゃ何故ダメなんですか?」に聴こえまして、
『そうだよなあ…ああ、そうか。僕が作りたいのはオーケストラのようなチームでしか作ることのできない、シンフォニーのようなアニメーションなんだ』と気づいてからです。

 先日のアンケート以来、TVシリーズの監督と各話演出の関係や、演出がどんな方法で新人アニメーターを育成できるかについて考えていまして。
 小澤征爾のインタビュー本【小澤征爾さんと、音楽について話をする】と、【オーケストラの経営学】を読んでみました。
指揮者とオーケストラの関係を、演出とクリエーターと比べてみたり、置き換えてみたり。

 『音楽監督とその他の指揮者の関係は?』
 常設オーケストラには音楽監督を務める指揮者と、そのアシスタントの指揮者、他にはプログラム単位で招聘される客演指揮者がいるようですね。
 常設オーケストラを制作会社、常任指揮者を監督、アシスタントの指揮者を演出、楽団員をクリエーターに置き換えて関係を考えれば、大勢のクリエーターを抱える組織の運営と育成方針のちょっとしたヒントが見えてくるかもしれません。
 日本で商業アニメーションが本格的にスタートしてから55年ほど経ちましたが、プロのオーケストラが誕生したのはなんたって18世紀のことらしいですから、運営システムも成熟していると思うのです。

 『指揮者と演出の役割は?』
小澤征爾は、カラヤンやレナード・バーンスタインのアシスタントだった頃、どんな意識と方法で何を学んだのか。
コンサート本場でタクトを振るチャンスはどのように獲得されるのか。
指揮者の楽譜の読み込みを、演出の絵コンテの読み込みに置き換えてみて、楽譜から音楽を構成することと、絵コンテから映像を構成することの共通ポイントを探ってみてはどうだろう。
音楽も映画も時間芸術と言われますしね。

 演出の力量は作画打ち合わせに立ち会えばわかります。
昔、演出が絵コンテのセリフとト書きを読んでいるだけの退屈な打ち合わせに立ち会ったことがあります。
あれは、譜面通りにタクトを振っているけれど、音楽を通して伝えたいものが無い指揮者みたいなものなのか。
 指揮者が演奏家にイメージを伝える方法は、演出がクリエーターに『表現したいこと』を伝える方法の参考になることがあるんじゃないかなあ。

 作画の上がりを見て、『作画打ち合わせ』が機能していないと思うことはよくありました。
演出もアニメーターも、新人のうちに『密度の高い作画打ち合わせ』を経験して、完成映像のイメージを共有するコミュニケーションの訓練を意図的に仕掛けられないものか。
それが同じユニットで繰り返されれば、チーム内で共通言語が生まれて、その制作会社の個性となり伝統となって、新人に継承されていくんでしょうけどね…………と、遠い目をしてみる。

 『オーケストラの育成と音楽監督の役割は?』
 常設オーケストラの音楽監督に就任した指揮者は、どんな長期ビジョンを描き方針を立てるのか。
歴史のある一流のオーケストラには個別に確立された演奏法があり、先輩から新入りの楽団員に継承されるのが伝統となっているようです。
それがオーケストラのカラーになっているんですね。
最近はちょっと弱くなりましたが、老舗の制作スタジオにも伝統の作画カラーがありましたよね。

 固有のカラーと高い生産性を兼ね備えた創作チーム作りを目指すには、育成の初期段階で基礎技能習得の方向性とメソッドを統一した方が効率的だってことなのかなあ。
しっかり時間をかけて固有のスタイルを確立し、若手への継承もシステム化する。
一度基盤を確立してから、今度はそこに新な刺激を吹き込んでくれる監督を招聘して、新陳代謝を起こせばいいのか。
なーんだ、そういうことなんですね………………なーんだ……
書けば数行だけど、先は長いなあ。

 オーケストラの育成に最も重要なリハーサル、『指揮者を中心としたコミュニケーションを通して、一つの音楽観を作り上げる』、にあたるものは、制作現場では何に置き換えられるだろう?
 奏者間のコミュニケーションの基礎訓練にはオーケストラよりも弦楽四重奏が適しているのなら、新人アニメーターの育成も4,5人の同じ技能レベルのユニットで編成して、演出が各チームに課題を与えてみてはどうか。

 リハーサルを重ねることで演奏家同士の自発的な音楽的コミュニケーションを促すことは、制作現場に置き換えれば、一本の作品制作を通してクリエーター間の刺激と相乗効果が生まれやすい環境と機会を演出るということか。

 『音楽監督は指揮以外に組織運営のためにどんな仕事をこなしているのか?』
 オーケストラの個性の方向付け、長期ビジョンに基づいた演奏プログラムの選択と客演指揮者の招聘、演奏家の人事を、アニメーション制作会社のブランド化、技術目標と作品の選択、スタッフィングと比較して、監督と制作会社の依存関係の参考にできるところはないかしんらん。
うーむ、考えたいことの量に頭がおいつかない。

 でもですね、一つ根本的に気になるのは、幼少の頃から専門的な訓練を続けた一流の音楽家たちで組織する一流のオーケストラであっても、日本では経営の実態はとても厳しいことを【オーケストラの経営学】で読みまして…。
音楽の世界も芸術家集団が食べられるような組織を作るのは大変なんだなあ。
映画【おくりびと】の主人公を思い出しちゃいました。
オーケストラの規模は55人~109人らしいので、これは僕が理想とするアニメーション制作会社が抱えるアニメーターの数に近いんですね。
それについて考えるのはまた次の課題ということで…

水, 12月 19 2012 » P.A.WORKS Blog

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