第八十三夜
学園西町の細い路地に入ると、そこには「死」が待っていました。
普段なら、嫌だなあ、気持ち悪いなあ、と避けて通るんでしょうけれど、
【怪談百物語】当番のネタに困っていたので、『やった!助かった!』とパチリ。
怖かった話でしたね。
人生で初めて見たオバケの夢を覚えています。4歳でした。
その頃は、身の周りの昆虫や、巣から落ちた雀の雛、カエル、ザリガニ、ドブネズミ等、狭い世界に生息する生物に心魅かれていました。
トカゲを見つければ、捕まえては尻尾をちぎり、単独でクネクネと踊る様を観察しておりました。
「生きものを殺すと魂に襲われるぞ」
そう父に戒められましても、
「襲われたらお父さんが助けてくれればいい」
「魂は透明だから人には助けられないんだ」
そんな父の適当な教えもあったので、魚を解剖して腹から取り出した半透明の浮き袋を、「これが魚のタマシイなんだ」と遊び仲間にも教えてやりました。
疑う者はいませんでした。
弄んだトカゲが死んでしまいました。
『魂がやって来る…』
その夜、2歳上の兄と二人きりで留守番をしておりました。
玄関を乱暴にノックする音が聞こえます。
「お兄ちゃん、だれか来たよ」
兄は壁に寄りかかり、本に没頭して無反応です。
絵本『オオカミと七匹の仔ヤギ』の教訓から、玄関の扉は開けてはならないことは理解していました。
「誰ですか?お母さんはいません」
無言の訪問者は扉を激しくガタガタと揺さぶります。
ついに扉は勢いよく開けられ、枠組みいっぱいの不定形な魑魅たちがなだれ込んできました。
【もののけ姫】のリトルサイズ・ダイダラボッチに似ています。
それが死んだトカゲと、過去に殺めた生物たちの魂だと解りました。
確かに半透明でした。
悲鳴を上げましたが、兄は体操座りの二宮金次郎像のように無表情です。
魂に抱きかかえられ、飲み込まれ、首に巻きつかれて苦しくなり、その後の記憶はありません。
翌日、トカゲの死骸を埋め直し、盛った土に卒塔婆に見立てたアイスの棒を立てて供養をしました。
以来、夢に魂が出てきたことはありません。
「気を付けたほうがいいよ…もうブログ当番は回ってこないと思うけど」