P.A.WORKS Blog

抽斗を開ける人

先週末、西に向かう新幹線の車中で【奇跡の教室】(伊藤氏貴)を読みました。中学3年間の国語の授業では教科書を使わず、たった1冊の小説【銀の匙】(中勘助)だけをテキスト代わりに用いた伝説の国語教師、橋本武さんと教え子の物語です。

 

 「上手く描けるようになるために必要なことはなんですか?」と訊かれれば、「好奇心と探究心です」と答えてきました。それはアニメーターに限らず制作の成長にだって必要な資質です。でも、現実にはアニメーターも制作も思うようには育っていません。
 「描けるやつは教えなくても描けるようになるんだよ」、「残るやつ(制作)は残るんだよ」、「先輩の技術(仕事の仕方)を盗むんだよ」と、業界では昔から言われていますが、人を育てることに責任がある立場の人には言えない発言です。

 卓越した少数の職人の生産量で需要と供給が成り立つような産業ならそういう考えでもいいのでしょうが、圧倒的な人手不足のアニメーション業界ではそんなことは言っていられません。

 この仕事で食べていけそうな人の中で、たった一人でも貪欲に探究を続けて成長するタイプはほんの2%かもしれない。職場の先輩から技術を盗んで成長するタイプは15%かもしれない。それでも、適正な育成カリキュラムと情熱を持った指導者がいれば、プラス数十%は一人前に育てられるんじゃないか。

 この本を読むと、指導者は与えるのではなく、閉じていた好奇心の抽斗を開いて刺激してやればいいんだな、と気づきます。そこから探究する面白さを経験しながら問題を解決することを習慣づけるよう、時間をかけて訓練するんですね。
言うのは簡単ですが、学ぶ者以上に指導者には知識と探究と忍耐が必要なことが解ります。
 一生をかけて独自のカリキュラムを何度も見直し、改善を重ね続けている橋本武先生(今年100歳!)の探究心と情熱に、人と文学に対する愛を感じました。

 アニメーターも制作も、僕らは良質な育成カリキュラムを必ず作れるという信念を持って挑戦したいです。

水, 5月 23 2012 » P.A.WORKS Blog

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